高野先生の腕のなか




手首にカミソリを当てると、切れたところからじわりと血がにじむ。


そういえば、手首を切ったくらいじゃ死ねないとかなんとか、テレビで見た気がする。


血はすぐ固まってしまうから、と。


ふと横を見ると、お湯の貯まった浴槽。


そこに腕を沈めると、ふわりとお湯に赤が舞う。


次第に眠気がやって来て、ああ、死ぬんだ、と思った。


俺の名前を呼んだかもしれない。


薄れゆく意識の中で、最後まで俺の名前を…。



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