高野先生の腕のなか
「……山崎さん、」
久しく聞いたその声に振り向くと、神山くんがいた。
私の神山くんへの感情は、憎いとか、嫌いとか、そういうものが薄れていた。好きではないが。
高野と気持ちが通じた余裕だろうか。
この人を好きだった。とても、とても好きだった。だからフられて泣いた。でも私が泣いたから、高野は私の腕を摑んだ。全てが運命づけられているようだ。いや、そんなのは今だから言えることか。
とにかく、私は神山くんが好きだった。彼の良いところを知っている。もちろんそれは上辺だけのものかも知れないけれど、それでも、ふとした拍子の表情とか、仕草とか、きっと本当の神山くんもいたのだと、私は思いたい。
神山くんは言いにくそうに俯いた。
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