はらり、ひとひら。
side- 雪路
トタン屋根を打つ雨音で目を覚ました。
始めのころに「必要ない」と申し出たが半ば無理矢理与えられた自室にかかった時計を見ると、時刻はちょうど丑三つ時。
…やけに目が冴えて、眠れない。
私は一度目を覚ますと再び眠ることがなかなかできない質なのだ。
いや─そもそも妖は眠りなど取らずとも生きていけるのだが。
妖にとっての睡眠も食事も、酒も娯楽も─所詮すべて退屈しのぎ、あるいは人に倣ってする遊びのようなものだ。
それでも、だ。
いつからかこの身に宿った心らしきものは、今の私をしっかり形作る礎となっていた。
「?!」
「う゛っ」
廊下を音を立てないよう気を払い歩いていくと、轟音と共にうめき声が部屋から聞こえた。
一瞬背筋が伸びたが、襖の先の主を案じて窺い見れば、いつもと同じ大の字で眠る姿に安堵を覚える。
寝返りの拍子にどこかに額をぶつけたんだろう、わずかに赤い肌がそう語っている。
「盛夏と言えど、腹を冷やしてはなりませんよ」
ごく小さく囁いて、蹴飛ばされた薄手の毛布を掛け直し静かに部屋をあとにした。
想像以上に散らかった6畳の部屋を、また掃除しなくてはと思案しながら。
不思議と嫌な心地はしなかった。