はらり、ひとひら。
「だが今日は退くぞ。蓮池のほうは夜は特に瘴気が強くて危険だ。帰るぞ」
「うん。ありがとう、師匠」
つやつやの毛を撫で顔を埋める。わがままでごめん、でも妖に困る人は放っておけない。ましてや友達なんだもの。
「蓮池に棲む鬼は、恐らく化け妖だ」
「ばけあやかし?」
私の疑問には灯雅さんが答えてくれた。
「もとは妖じゃなかったってことさ。物や動物、植物が、強い怨みの念で物の怪になってしまった。付喪神みたいなもんだ」
付喪神は聞いたことがある。長い年月を経た道具には神様が宿るとされているもの。
「化け妖は雑魚(ざこ)ばかりだが、どうやらそいつはかなりの強者らしいな」