はらり、ひとひら。
「ああぁ、神様、今日の供えもんは…う、げほっ、げほ」
「お、おい。無理をするなと言ってるだろう」
足しげく池に通う翁だったが、人里から遠く離れた森に来るのは容易ではない。人の体のことはよくわからぬが、子どもや年寄りは特に弱く…病で簡単に死んでしまうほど弱い生き物だと聞いた。
「なんでそこまでするんだ。私のことなど放っておけばいいものを…」
「こんな年寄りに優しく声かけてくれんのは、神様ぐれえだ」
へらっと笑った翁に溜息をつく。阿呆らしい。
「長くない命を、捧げられんのが嬉しいんです。老いぼれへの、天からの最期の褒美な気がしてならんのです。許されるんなら、俺ぁ神様と一度でいいからお話ししてみたかった」
流行り病に罹った翁は、もう長くないと告白した。妻と子を残して死ぬのは心残りだったが、家に居てうつしてしまうのも本意ないと言った。
「どうか家族を守ってやってはくれませんか」
そんな力など、妖にあるわけがないというのに。