はらり、ひとひら。
「ねえそういえばあなた、名前は?」
聞こうとしていてすっかり忘れていた。いい加減、「ねえ」とか「あなた」では呼びづらい。
「ん?あぁ、俺は個別に名前はなかったが、群れでは常盤と呼ばれていた」
「トキワ?」
「お師匠様がくれた名だ。大切な名」
風に流れる優しい声と、風鈴の音に涙が出そうになる。
「ヨウコと話してる間だけは、自分が異形だってことも忘れそうになった」
それって…常盤はもしかして、ヨウコさんのことが…それから先は何も言えなかった。お面の下、彼がどんな顔をするかわからなかったから。
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電車で揺られる。窓の外、青々とした木々が流れていく。少し遠くの地まで今日は足を運ぶことにした。ダメもとでも、試す価値はあるだろう。
「あの、すみません!ヨウコさんってひと、ご存知ありませんか?」
手当たり次第、あたってみよう。庭で花に水をやる老婆に声をかけた。
「・・・ヨウコ?タカミヤヨウコさんのことかい?」