はらり、ひとひら。
雑踏の先、淡い緑の浴衣に身を包んだ彼女は誰より美しかった。しきりに時間を気にし、辺りを見渡すヨウコを遠く離れた場所から見つめる。
「すまなかった」
ただの気まぐれで声をかけるべきではなかった。人と妖、歩む歩幅も速さも全く違うと言うのに。
『誰かいるの?』
その声に答えてみたくなってしまったんだ。綺麗な瞳に映ったことがあまりに嬉しく。
『─常盤さん』
『へえ…すごく物知りなんですね』
『嵐が近づいて来てるそうですよ』
『緑が綺麗』
『一緒に花火、しませんか?』
あぁ、ヨウコ。
『あなたが好きです』
どうか幸せに。
俺はヨウコに声を掛けないまま、しずかに社を後にした。