はらり、ひとひら。
思い出せないな。でもそれはまるで、常盤とヨウコさんのようだった。
「─…」
「そうだ、常盤。今日もヨウコさんのいた町へ行ってみる?家族の方に会えたら、もう少しお話聞いてみようか」
都合のつく日に少しの間だけでもいい、ヨウコさんの話が聞きたい。笑いかけると常盤はそっと私の頭を撫でた。
「いいんだよ、杏子。もう、十分だ」
優しい声にはっとする。
「お前には貰いすぎなくらい、恩をもらった。返しても返し切れない。…ヨウコは俺と過ごして幸せだったかわからない。俺は─あれを人として生かしてやりたいと思ったあまり、想いに応えることはできなかった意気地なしだ」
まるで、あの夢にでてきた2人じゃない。ああでも、上手く思い出せない。一つひとつが淡く光る思い出は優しすぎた。
頭の中で、ぼんやりと輪郭を描いていた夢が途端に色付く。人ごみの中、時間を過ぎても現れない常盤にすべてを悟ったヨウコさん。彼女は、神社から去る常盤を見ていたんだ。それで笑うんだ、涙を流して。「ずるい人」って。
大事に想うからこそ遠のいた。それはなんて…
「ヨウコさんは絶対に幸せだったよ」