はらり、ひとひら。
「杏子、入るわよ?」
お母さんが控えめな声でそう言ったので、私はうんと言いたかった。
でも、声が上手く出る自信がなかったから黙っていた。
「起きたのね・・・具合はどう?」
「大丈夫、心配かけてごめんね」
「・・・杏子」
私の傷だらけの手を優しく握るお母さんの手。よく見ると母は目の周りを赤くしていた。…泣き虫なのは遺伝かな、と少し心が軽くなる。
あったかい。
「黙っていてごめんなさい。全部、話すわ。聞いてくれる?」