はらり、ひとひら。



「な、なんですかいきなり」


「んー。なんとなくだよ」


ははは、と先生の笑いが耳に届く。


「・・・先生は信じてるんですか?」


「勿論。見えるもんなら一回でいいから見て見たいよ。憧れなんだ」


憧れ…。先生は窓を拭きながら遠くの山を懐かしむように見つめた。


「椎名はどう?」

「・・・どうかな。うーん、わかんないです」


笑って適当にごまかした。


「オレ、ゴミ袋取ってくるな」

「あ、はい」

滑りの悪そうな音がして、扉が閉まった。


「・・・びっくりした」


妖が見えない人にとって、妖怪はどんな存在なんだろうか。私も少し前まで見えない側の人間だったけど─。



< 253 / 1,020 >

この作品をシェア

pagetop