はらり、ひとひら。


「おいらを煮るなり焼くなりすればいい!でも、アンズにだけは手を出すな!」


「ほう。変わりましたね。…いいでしょう」


朱獅子はもう一度深く笑うと、



「明朝、北の森へおいでなさい。もし一人で来なかったら、その娘ともども地獄へ送ってやります」


と告げた。

暗闇の中怪しく光る瞳を睨み頷くと、朱獅子はふっと消えた。


大分、月の位置が変わったな。



夜明けまでに、森へ行かなければ。



明日おいらは喰われて死ぬのか。あぁ、でも─これで家族にようやく会える。


そしてアンズが助かるなら。これが精一杯の恩返し。何もできないと思ってたおいらにも、不器用ながらできることがあると教えてくれた。



「…アンズ」


白い肌に、長い睫毛が淡く影を落としている。




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