はらり、ひとひら。
「ありがとう」
少しだけ、姉上が生きていた頃を思い出した。
アンズは、ちょっとだけ姉上に似ているかもしれない。
ありがとう、少しの間だったけど楽しかった。それからごめん。
「姉上─もうすぐそちらへ、参ります」
消えかけの青白い月に向かって、微笑んだ。
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「朱獅子。おいらだ」
山際に瑠璃色の空に、橙色が溶け始めているころ。
「お早うございます」
奴は木々の間から薄く笑いながら顔を出した。
「っ、な、なにするっ…!?」
突然、おいらの足元に陣が浮き上がって地面から伸びた縄で大木に縛り上げられた。
「お前なんぞは喰らいません。あの娘はお前が家にいないとわかれば、必ずここへ来るでしょう。─気が変わりました…お前の変わりに、あの娘を喰います」