はらり、ひとひら。
風の抵抗を振り切り、一息に地へと着地すると、杏子は目を瞠った。
「し、師匠…!よかった、いたっ」
「落ち着け。狸は森へ消えた。このままだと朱獅子に喰われる」
がたがたと、杏子の身体が震える。
「ど、うしよう!ゴンが」
「ええい落ち着け。森へ行くぞ、その姿ではまずい。着替えて念のため札を持って行け」
杏子は首を横に振り、走り出した。
「なっ」
「駄目、そんなことしてる暇ないよ!」
「言うことを利かんか馬鹿者!!相手はいつものような雑魚じゃないのだ!」
諭すが杏子は聞く耳持たず。…なんて女だ。神格の妖相手に丸腰で挑む気か。
「乗れ!」
どうなっても、知らんぞ。
誰に似たのやら、その強情さはひどく懐かしく思えた。