はらり、ひとひら。
「そうなんだ…」
父のことはよく覚えていた。海斗が生まれてすぐ、父は病気に罹り亡くなってしまった。最期の日、あの日ほど泣いていた母を、私は見たことがない。
それでも気丈に振る舞い働く母を強いと思った。私も、こうなりたい。
「ほんとはさ、就職も進学もどっちも素敵だって思うの。だけど…私は巫女だから、この地を離れることができないなら、地元で就職して…働きながら、巫女として生きていった方がいいのかな」
わからない。ひとりごとのように呟いた言葉は本音だった。
「受け入れがたいことなら、無理に受け入れることもない。俺は生まれつき、物心ついたときから『こうやって生きていかないと駄目』と教えられていたからもう踏ん切りはついてる。…でも椎名さんは、途中から、こっちの世界に巻き込まれる形なんだよね?」
こくりと頷いた。なにも自分の運命を恨んでいるわけじゃない。妖が見えるようになってから、得難いもの、大切なものが増えたのは事実なのだ。