はらり、ひとひら。
神崎くんは私たちのやりとりを楽しそうに見て、面白いたびに声をあげて笑っていた。そんないつもと違う彼を知っているのは私だけなんだと思うと、すごくくすぐったかった。
「また来てね」
「じゃあねー」
「お邪魔しました。ご馳走様です、すごくおいしかったです」
夕飯を食べ終わり、少しみんなで話したあと、もう遅いから、と帰るようやんわり促された彼は礼を言って家を出て行った。
玄関先まで見送る母と海斗はいつになく上機嫌。二人して顔ゆるみきってるし…
冷え込みが厳しくなってきた夜空の下、私は少し先まで彼と一緒に歩くことにした。
「なんか、ごめんね…?疲れなかった?」
「全然。むしろ、あぁいうの憧れだったんだ」
憧れ?
「ああやって食卓をみんなで囲んで、他愛もない話をするの。俺の母は身体が弱いから部屋からあまり出てこないし、ご飯を食べるのも、いつも俺一人だったんだ」