はらり、ひとひら。
「─え?」
沈んだ声に顔を上げるけど、うつむいた彼の顔は前髪で隠れて見えなかった。
「神崎くん…?」
「…なんでもない。じゃあ、また明日。ご家族によろしくね」
今、何を言ったんだろう。瞬きをしているうちに彼は笑顔を作っていた。
やっぱり彼のことを、何一つ知らないんだ、私。もう一年近く一緒にいるのに、まだまだ遠い。
まるで雲の上にいるよう。このままどんどん、彼は遠ざかっていってしまうんだろうか。…そんなの、嫌だな。
「うん、またね」
ミルクティ色の髪、色素の薄い瞳。優しい声。抱いたこの想いは、日に日に大きくなる気持ちはもしかして、そうなのかもしれない。
初めて抱いた気持ちは苦しくて仕方なかった。神崎くんの姿が見えなくなってもなお、私はぼうっと突っ立っていた。