はらり、ひとひら。



「世話をかけすまなかった。どうかお前にこれを持っていてほしい。修行を終えたらその時は正式に神となり、またここへ戻ってくる」


強く頷いた。


「忘れません、必ず会いに行きます」


「─六花(りっか)」



笑って首を振った後落ちた、ごく小さな声。耳に触れた三音は、白神様の本当の名。涙が零れる。


手が離れる。遠のき、空へと昇る人影。最後にみた素顔は本当に優しい顔つきで、とても晴れやかだった。



「さようなら」



ひとつ妖の命が消え、ひとつ天上に命が増えた。神に焦がれた妖は、空へと手を伸ばし続けようやくその手が届いたのであった。



それ以降、六花様からは何も便りがなかった。修行に明け暮れているのだろう。─残念ながら面はあれからすぐに割れてしまったのだが、その欠片の中からひとひらの綺麗な小石を見つけた。


石は、今でも机の上、静かに今日も輝いている。













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