はらり、ひとひら。
「…!」
桔梗は絶句した。大きな瞳をゆがませ、涙がぼろぼろと零れる。
「杏子っ…」
「千歳さん、行ってください。桔梗も」
「ありがとう。いい友人を持ったなあ」
黙っていた師匠だったが、桔梗が頷くと変化し妖へと変わる。
「あぁ、すごいな…」
師匠はさっき言っていた。ごく小さな声で、寂しそうに呟いた。
「死期が近い人間はこの世とあの世の境が曖昧になって、妖やそういう類のものを見やすくなる」
と。
「夢のようだ。おとぎ話みたい」
「夢じゃない。すまない杏子、白狐殿。…ありがとう」
行ってきます。それが、千歳さんの最期に聞いた声だった。