はらり、ひとひら。
「見届けられてよかった」
ありがとう、と呟く桔梗の眼にはもう涙はなかった。それからのことはよく覚えていない─が、ナースコールに駆けつけてきた医師と看護師に案の定詰問された。しかし彼の遺志をしたためた手紙を見ると渋々納得したようだった。
晴れた6月の末。千歳さんの葬儀はひっそりと執り行われた。私と桔梗も参列し、最期の別れを偲んだ。
「綺麗だね」
葬儀を終えてそのまま、私たちは丘へやってきた。
話で聞いていた通り、見晴らしがいい。柔らかい風がふわりと髪を連れて行く。もうすっかり夏の匂いだ。
「桔梗は…これからどうするの?」
「…人として生きていく。働いて、お金を貯めたら遠くへ行くんだ。彼がしたかったことを、代わりに叶える。そしてまた時が来れば、彼に会いに行く」