はらり、ひとひら。
「じゃあな。どうか…どうか幸せで」
手を振った彼女は満面の笑顔で丘を下りて行った。風にそよぐ髪の色がどうにも美しく、私は目を擦った。
「幸せに生きて」
翻る彼女のワンピースは帆のようだった。強い風を受けても、細い背中はただ真っ直ぐに未来に向かって歩みを進める。抗えなかったさだめでも、それでも幸せだった。
洟を啜りもう一度袖で涙を拭う。伸びをしてもう一度風景を堪能して、乾いた土に座り込んで師匠を抱きしめた。
「色々、ありがとう師匠」
「ふん。暇つぶしだ、あれもこれも。妖にとっては時間など悠久に代わりない」
天邪鬼な言葉に少し胸が軽くなった。
帰ったら本で花言葉を調べてみよう。絵を描くのは少し苦手だが、得意な海斗に教わりながら花でも描こう。彼が愛した花に、どんな意味があるのか。
─満ちた気持ちで画材を押入れから引っ張り出したのに、いざ本で花言葉を調べてみると私は泣き崩れ作業どころでなくなったのだった。
"変わらぬ愛"