はらり、ひとひら。
ばちっと目が覚め、荒い息が耳元で鳴った。それが自分のものだと理解するのに、少しだけ時間がかかった。
「おい。大丈夫か?魘されていたぞ」
「天音…」
「ひどい汗だ。水でも飲むか?」
少しぎこちない手つきで、天音は汗で張り付いた私の前髪をよける。彼女の優しさに芽生えた夢の恐怖心すら溶けてなくなってしまいそう。
起き上がって天音から水を貰うと、部屋の中、見慣れた姿が見当たらなかった。
「あれ?師匠は?」
「九尾狐か?あいつなら明け方から森へ向かったぞ」
森へ?こんな朝早くからなぜだろう。
「森の南側からひどく悪い気配がするらしくてな」
静かな声で彼女は教えてくれた。
悪い気配…妖だろうか。