はらり、ひとひら。
木々の向こう側から形容しがたい、苦しげな咆哮が上がった。
「お出ましか」
「まさか─」
逃げる間も与えられず、枝を折りながら豪速でやって来た邪鬼。黒い塊のような見てくれの割に素早い。はふはふと息は荒く、口許についた妖の血はぬれぬれとまだ新しかった。
「食べたりないって?」
「品のない奴め…」
『美味そう、強いチカラ。欲しい、チカラ…寄越せ』
邪鬼は地を這うようによろりと体をよじる。頭をもたげ、赤い目が爛々と光る。鈍く下品な光り方をひどく嫌に思い舌打ちをする。
「ここらで妖を喰い荒らしているのはお前か」