はらり、ひとひら。


茜さんはすっと涙を流して目元を押さえた。アカバは手を伸ばしてゆっくり、壊れ物に触れるようにしてその涙を拭う。



「あぁ、温かい。それに、優しい。─ようやく触れられた」


「アカバ…」


満足そうに目を閉じる彼に胸が痛み狂おしいほど、アカバと茜さんの視線が交わることを願った。


何年彼は彼女を想った?

変わらない人間なんていない。姿形のみならず、時を経て人はすべてが変わっていく。


茜さんの皺くちゃの指に嵌められた銀の指輪。長いながい人生の苦労を体現したかのような指だけど、幸せな女性の手。



「それでいい。普通のありきたりな幸せを君に与えてやりたかった」


「君を幸せにしたいと、いや…共に幸せでありたいと思わなかったわけじゃない。だけど君と私ではあまりに遠い」



アカバは今まで聞いたこともないような優しい声でこう呟く。



「君はあまりに綺麗すぎる」













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