はらり、ひとひら。


刺すような視線。


踏み出した足も、一瞬で凍りつく。



慌てて辺りを見回すけれど、私を見ている人などいなかった。妖も然り。



「…?」

「どうした杏子」

「…ううん、なんでもない。早く行こ!」


気のせいか─


---------------


「っはー、おいしかった」


膨れたおなかを撫でつつ布団に転がる。あー至福の時間…


やっぱり冬は鍋に限るなあ。今日は水炊きだったけど、次はキムチ鍋がいいな。あ。ちゃんこ風もいいかも、ああでもおでんも捨てがたい。


「食い意地のカタマリめ」

「い、いいでしょ!健康で」


師匠の嫌味をかわしつつ、明日提出の課題を思い出して鞄に手を伸ばす。


─あれ。おかしい。


「っ」


体が金縛りにあったみたいに、動かない。
< 628 / 1,020 >

この作品をシェア

pagetop