はらり、ひとひら。
「椎名様、もういいです。もう十分です。あなたの思いで私は救われました」
嬉しそうに細む瞳につられて私まで泣きそうになる。
「手が駄目になってしまいます。女子の手はこんなことで傷つくためにあるわけではないのです」
「っ、『こんなこと』じゃない!」
よく見れば私の手のひらは血が滲んで、あちこち肉刺ができていた。普段シャベルなんて握らないから、当然の結果だけど。
じくじくと響く痛みさえ、感じなかったんだ。必死だったから。
「ざくろさんとの思い出を『こんなこと』で済ませないで…!お願い琥珀、諦めちゃ嫌だよ」
きっとどこかにあるはずなんだ。
忘れたいけど、きれいさっぱり忘れ去られるには少し切なくて。
誰かに覚えていて欲しい、自分もいつか思い出せる、未来の可能性に懸けた優しい思いが─
「っ!」
シャベルの先に、手ごたえ。