はらり、ひとひら。


「子どもができなくて、私すごくショックだったから。…やっぱりあなたと一緒に生きるのは難しいんだって思って─」


「だから私、魂売っちゃった。少しでも琥珀に近づきたくて、人を辞めたの」



この上なく明るく笑った彼女の強さに、目を見張る。



「それは…どういう」

「この櫛。…気づいたらこれと、話が出来るようになっていたの。私昔からそういうものには敏感な方だったから、よくモノとお話とかしてたんだけど」


ひどく落ち込んで病んでいるとき、櫛に声をかけられたの。


「良いことを教えてやる、って」

「…」

「この子、大切に扱った私のことを気に入ってくれたみたいで。『自分が入口になるから、時間をかけて魂を黄泉に置いて来い』って」



そして、人の体を捨て妖に転じ甦れ、と。


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