はらり、ひとひら。
同意するように春風に舞った桜色が目に溶ける。なんだか─桜吹雪を見ていると、桜子さんの声が聞こえる気がするんだ。
「杏子!おはようっ」
たたたっ、と駆け寄ってくる足音。飛鳥だ。出会った頃より背が伸びて、すらりと大人っぽい。正直ちょっとうらやましい。
「ちょっとー、早く来てよ!!」
振り向いて手招きした飛鳥が呼びかけると、渋々走り出す一つの影。
「朝っぱらから走らせんなよなー。お、杏ちゃん~おはよっ」
秀くんの屈託のない笑顔も変わらない。向日葵みたいな眩しさは健在だ。
「ん?なんだよ杏ちゃん、オレのこと見つめちゃって」
はっとしたような表情になって、自分を抱いて頬を赤らめる秀君。
「まさかオレに惚れちゃった!?」
「んなワケあるかいっ」
軽く殴る真似をすると、変な声を出して秀君は飛鳥へと泣きつく。
「うえ、キモいからこっち来ないで。しっしっ」
「ひどくね!?」
夫婦漫才で朝からにぎやかだ。多分言ったらこれ、飛鳥から怒られちゃうから言わないけど。
それにしても、綺麗な青空。
「……ん?」
あれ?
見間違いかと思って、ぱちくりと瞬きをしてみる。