はらり、ひとひら。
「凄く嫌な気配がする。…こっちへ来る」
静かに押し殺した声が、頭上に落ちてきた。はっとする。…妖か、邪鬼?
嘘でしょう、こんな人の多い場所に邪鬼が来たら人たまりもない。
『見つけたぞ!!修羅の血の、桜の巫女め』
鈴のようなよく響く声が可愛らしい。え?妖?
「ええいどけろ小僧。そこに娘がいるだろう、匿っても無駄だ。寄越せ」
「それは─できないな」
神崎君は静かに手をスラックスのポケットに差し込み、式紙から刀を取り出し鞘に手をかけている。目が恐い。こんなところで刀を抜いたら大変だ。
「神崎君、駄目だよ!」
「出てきちゃ危ない。椎名さん、下がって」
「でも…!」
押し問答をしていると焦れた妖が苛立たしげに声を荒げた。
「私は人間は喰わない。喰えるものか。傷つけないと約束するから、さっさとその巫女を渡さんか」
「…ね?」
だから、平気。と笑ってみせると、神崎君はつらそうに眉を寄せたがそれ以上は何も言わなかった。