はらり、ひとひら。
そりゃ、彼女がこちら側の人間だということは知っているし、強さも充分あると思う。ほんの数年前まで素人だった椎名さんが、術を扱い妖祓いをしているということも知っている。
にわかに信じがたいけど、この目で見たことがある以上うそじゃない。
だからもしあの人魚の妖が、椎名さんを襲ってもきっと対抗するすべはあるんだと思う。
…だけど、彼女はあまりに優しい。疑うことをしない。身体的には確かに強いかもしれない。だけどこころは、普通の女の子な筈なんだ。
あぁ、やっぱり無理矢理にでも着いていくべきだった。心配だ。今更だけど。
今から、追いかけるか?だけど、俺が手を出していい領分じゃない気もする。…そもそも、こうやって堂々巡りしている時間も無駄な気がするけど。
「はあ…何やってんだ、俺」
「なぁーに暗い顔してんだい、主」
突如降ってきた、聞き慣れたはきはきした声に意識が覚醒する。
「灯雅」
「刀を抜いたね。何か大事あったのかと思って飛んで来てやったさ。あの子は一緒じゃなかったのかい?」