はらり、ひとひら。
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通学路の塀の上、白狐は丸まって日光浴の最中だった。
「杏子が妖に連れて行かれた?」
白狐はさして興味もなさそうに、あくび交じりに俺の言葉を繰り返す。え。いいの?そんなにルーズで。
「人魚みたいな妖だった。今朝も似た妖が空にいるのを見たんだけど─きっと、チャンスをうかがっていたんだと思う。ごめん、早く斬っておけば」
「お前、見かけによらず過激だな。杏子以上にすぐ手が出る」
何を言っているんだ。
「妖は、悪だ」
人に手を出す妖は全員そうだ。亡き父の教えだ、式神以外の妖を信頼するな、と。
いや。もっと言えば、自分の式神以外も基本的に疑ってかかった方が身のためだし、場合によっては自分の式神すら疑うべきだ。
白狐はわずかに目を見開いていたが、ゆっくり立ち上がると伸びをして空を見つめた。
「杏子とは真逆な考えだな。…まあ、お前はそれの方がいい」
「え?」
「人魚とか言ったな。どうせ野暮な頼みだろうが、まあ何にせよお転婆が過ぎる。面倒だがお迎えに上がる」
瞬きをしている間に、白狐は本来の姿へ転じて白い軌跡を残しながら森の方へ飛び立っていった。
…真逆、か。