はらり、ひとひら。
「主様は暑がりでしたものね。昔から」
「ん。まーな」
「これから本格的に暑くなります。どうぞ無理をなさらず」
そっと差し出された白魚のような手に触れると、相変わらず氷のように冷えていた。こんなに夏日だっていうのに。
なんか、保冷剤掴んでるみたいだ。そう言うと彼女はくすっと笑う。
でも手触りはそんな無機質なものじゃなくて─ちゃんと人の手だ、って安心する。
…雪路はこれを昔からよくやってくれた。暑くて眠れない夜とか、風邪ひいて高熱出した日とか。
嫌な顔ひとつせず笑って左手を差し出すんだ。
ひやりとした優しい温度は、いつだってオレの心を安心させてくれる。
誰も見向きもしないオレに手を差し伸べてくれたのは、こいつだけだった。
「…暑くない?」
「私でしたら、心配無用です。何せ雪女ですから」
「そっか」