はらり、ひとひら。
【澪side】
はじめから、そう簡単には殺さないと、決めていた。
「苦しむ姿はなかなか素敵だったけど、そろそろ帰らなきゃ。…とどめにしようかしら」
目の前で手足を封じられた、大妖の姿とはかけ離れた白髪の男─人の姿をした白狐に私は拷問をした。
妖とはいえ人の形をとっていれば、ダイレクトに痛みは頭へ伝わる。痛みにもがくも、狐男はけして悲鳴をあげたり、主の名を呼ぶことをしなかった。
妖力の供給バランスを意図的に私が崩したお陰で、満足に変化(へんげ)もできない。さぞ屈辱的だったろう。
「…悪趣味女め」
血塗れで項垂れ、息を切らしている姿が扇情的で胸が躍る。
こいつを生かすも殺すも、私次第。全てを握っているのは、私。
あぁもう─なんて甘美なの。
命を嬲ること以上に愉快なこと、あるかしら。
「…満足したか?」
「口が利ける元気はあるようね。じゃあ次は舌でも抜きましょうか?」