はらり、ひとひら。


口を開けさせ赤い舌を引っ張る。ぎざりとした歯が、指に当たって堪らない。


「でも抜いてもどうせ、また生えるものね。おぞましい、人間にそっくりの形なのに」


ちっとも人じゃないんだもの。
絹糸の髪を撫でれば、不服そうに思い切り指を噛まれる。じわりと血が滲んだ。


「かわいそうなはぐれ狐」


助けはこない状況下。やはり、この体は恐ろしい力を秘めていて、完全に人の体であるのに、妖や神などの類と遜色ない霊力が蓄えられている。


そのお陰で霊界へは簡単にアクセスできた。閉じた世界で甚振る命のなんと愛らしいこと。


「やめて、そんな目で見ないで、壊したくなるでしょ」


回復して、また壊して、治る前に壊して壊して壊してこわして─



「…だあいすきな主の姿で殺されるんなら本望でしょう。さようなら、白狐」

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