はらり、ひとひら。
【杏子side】
体が傾いだ。四肢から力が抜けて倒れ込みそうになった寸前、見えたのは呪文が前面に書き殴られた赤い手鏡。
あ、と思った時には見慣れた視界の高さと自分の制服。
戻った、と。
「杏子よけろ!」
つかの間の安堵さえなく澪は笑いながら私たちに攻撃を仕掛ける。水が弾丸のように地面を穿つ。木々はなぎ倒され、聞こえない筈の悲鳴が上がる気がした。
─狂っている。
「森が!!もうやめて澪…!」
「うるさいうるさい!母様に叱られたらどうするのよ!そんなの絶対、あってはいけないの!」
聞く耳はもうない。耳どころか、澪には大切な何かが欠落している。そう、静かに悟った。
「杏子」
最初から、こうすればよかった。
「塞、縛、封、遮、鎖し籠め」
彼女を狂わせた原因はきっと─
動きの止まった澪に、憐憫の情は持たなかった。
「艮に坐す忌の者よ 八百万の神々の通力もちて─」