はらり、ひとひら。


その時はきっと、今度こそ澪を祓う。


強く拳を握った。悔しくて不甲斐なくて今まで堪えていたものが、堰を切ったようにあふれ出た。


「師匠ごめんね。本当にごめんなさい。もっと早く来ていたら」


師匠の人の容姿を見るのは久しぶりだったが、夥しい血で汚れた着物に心が悲鳴をあげていた。本当に叫びたかったのは師匠の方だっただろうけれど─


「もう傷は癒えた。気にするな」

「でもっ」


師匠の大きな掌が髪を滑る。碧眼があまりに優しい色で思いがけず肩が震えた。
首を横に振って、抱きしめた。優しい体温と拍動に涙はかさを増した。


ぐすぐす洟を啜り、師匠の胸に顔を押し付ける。我ながら子供みたいだ。


「うぅぅ!」

「甘えん坊かお前は」

「甘えん坊でいいよもう~」


師匠がこうやって生きていれば。


「お帰り、椎名さん」

「…お帰り。杏子」


優しく笑いかけるふたりに、私は笑って答えた。



「ただいま!」


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