はらり、ひとひら。
「ぅ…」
声が出なかった。あまりの雰囲気に気圧される。
闇色の眼に穴が開くほど見られ、魂が抜かれていくようだった。
「動くな。それ以上近づくことは許さない」
「…ふふ。怖い顔」
雪路の凍てついた声にもその妖は臆せず、俺たちとの距離を詰める。
「それ。とって」
「な…?」
何が、と言いかけて視線の先に転がっていた鞠を見つける。ああ、これか。
「大事なものなの」
お願い、と首を傾げられまた、ちりんと鈴が鳴った。どうにも怪しかったが恐る恐る手を伸ばそうとすると、優秀な式神から厳しい声が伸びる。
「主様。簡単にお手を触れてはなりません、どんな小賢しい術が隠れているかわかりませぬゆえ」
「…それもそうだ。そら、どけてやるから自分で拾え」
「……紳士じゃないね」
道を開けてやると妖はゆっくりしゃがみ、鞠を拾った。動くたびに空気が淀むような、まるでこの妖自身が呪いのような─そんな感じがする。
それほどこの妖は、どこかがおかしい。