はらり、ひとひら。
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「くっ…」
どくどくと脈打つ傷が痛む。もう時間は経つのに癒えない、どうして。
あのまま、祓いの文言を唱えられていたら─と思うとぞっとする。ああ恐ろしい、なんて危険な餓鬼。早く消さなくちゃ。今度はきっと。
「母様!!」
夕闇がこれほど似合うお方はいないだろう。
綺麗な瞳が私を見ている、嬉しい。
「澪。夕立から聞いたよ、へましたって」
「! も、申し訳ありませんッ」
「ま、それより…どうだった? 鬼の子の体は」
母様はにこりと微笑む。とろけそうな笑顔に心が安らぐ。
鬼の子─神の子。椎名杏子の肉体は本当におぞましくもあれば、魂が浄化される感覚も伴ういやな体だった。
「あの娘子がいる限り血に狂う者は絶えません。妖…いいえ、あれは神をも惑わす本物の『鬼』」
「へーえ。修羅の血ってやっぱり凶器なんだ」
「はい。さすがは『器』になれるだけの素質があると」
うんうん、母様は頷く。
「ですからあの娘もあれと同じよう隔離し、来たる禍(わざわい)に備えるのが得策かと─」
言葉の途中で傷口が痛み声が詰まった。…傷が深い。全く忌々しい。
「澪? …あぁ、巫女に祓われかけたんだね。可哀想に」
「母さ…」
「だからもう、楽になっていいよ」