はらり、ひとひら。
『君の力が必要なんだ。おいで』
『名前を捨てたと言うのなら、新しい名前を授けよう』
『澪』
あの笑顔すら嘘だったと言うのでしょうか。あぁ、母様の顔が見えない。静かな絶望に体ごと冷え切っていくような気がした。
「ありがとう。─これで有益な情報が手に入ったよ、澪のおかげでね」
「母様……」
白い手に頬を撫でられ安堵する。相変わらず体は動かないけれど、やっぱり母様は私を捨てたりなんてしない…
「だからもう用はない。安心して同胞に会いに行けばいいよ」
いやだ、それは嫌。叫びたいのに声が出ない。
涎を垂らして息を荒げる狒々の群れが私を餌だと思っている。
「嫌ぁああっ」
─捨てないで!
最期の記憶に焼き付く、飢えた猿の咆哮と、自分の骨が砕ける音。
それから喪服の悪魔のような式神の底冷えした笑顔が、母様の見下す視線が。
私を地獄へ引き落とす。
ひとつ妖の命が彼岸へ連れて行かれた。