はらり、ひとひら。


丁寧に解説しながら海斗に教える千鶴さんを見ていると、やっぱりお兄さんなんだなあと思ってしまう。
…それにしても教えるの上手だなあ。私も何か教えて欲しいレベルなんですが。


暫くノートと睨めっこしていた海斗だが、いきなり感嘆の声をあげた。


「あぁ、そっかなるほど! わかった」

「おお、ちゃんとわかったか? さっすが俺ってば教え上手」

「違うね。おれの理解力がいいの」

ふふんと笑って海斗はまた教科書を眺める。


「千鶴さん、教えるのすごい上手ですね。頭良いし凄いなあ」

「照れるな~。でもさすがに中学くらいの問題なら誰でも解けるでしょ」

「…誰かが解けないからおれ、ここに通ってるんだけどね」

「……誰のことかなぁ全然わかんない」


はは。身に覚えがないし見当もつかないなぁ。冷や汗が流れてるなんてそんな嘘やめてほしいです。

くつくつと笑う気配。千鶴さんは笑いを押し殺していた。


「おねーさんは勉強苦手なの?」

「…古典だけなら自信があります!」

「文系かー。じゃあ陸と一緒だな」


あ、やっぱり聞き間違いじゃなかった。千鶴さんと月子ちゃん、他にもきょうだいがいるんだ。訊ねようとした矢先、今まで気付きもしなかったけど静かな所作でお茶が運ばれてきて飛び上がる。





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