はらり、ひとひら。


誘われるようにドアノブに手をかけた。勝手に開けてはいけない、頭の中で警報が鳴り響いているのに─体がいうことをきかない。


「っい!?」


物凄い力で腕を引かれた。

…何が起こったのかまるで理解できなかったが、わかるのは一つ。一瞬でも行動が遅れていたら、怪我では済まない傷を負っていただろうということ。


「!? な、何が起きてっ、り…陸さん…」


私の腕を捻りあげていたのは陸さんだった。表情が読めずともわかる、激怒している。血の気が引いた。にわかには信じがたい、夢でもみているような気にもなる。


足元ぎりぎりに床から生える、無数の槍に寒気がした。


「…どうやってここに、来た」

「…ごめんなさい。陸さんにお手伝いできることはないか、って聞きたくて探してるうちに迷って…それで」

頭上から響く小さな溜息に委縮する。

「ここは危ない。無闇にうろつかないで…怪我じゃ済まない仕掛けが、いくつもある」

怪我じゃ済まない仕掛け─よりも、どうしてそんな仕掛けが家の中にあるんだろう。そっちの方が不気味で血の気が引いた。


─ここは、何だ?

…だけど意気地のない私はそんなこと訊けるわけもなく。


「ごめんなさい。ご迷惑をおかけしました」

「案内する、から…早く部屋へ戻ってください。手伝いはいい、いりません」


うっ…ですよね。今の私は疫病神でしかないだろう。
< 783 / 1,020 >

この作品をシェア

pagetop