はらり、ひとひら。
誘われるようにドアノブに手をかけた。勝手に開けてはいけない、頭の中で警報が鳴り響いているのに─体がいうことをきかない。
「っい!?」
物凄い力で腕を引かれた。
…何が起こったのかまるで理解できなかったが、わかるのは一つ。一瞬でも行動が遅れていたら、怪我では済まない傷を負っていただろうということ。
「!? な、何が起きてっ、り…陸さん…」
私の腕を捻りあげていたのは陸さんだった。表情が読めずともわかる、激怒している。血の気が引いた。にわかには信じがたい、夢でもみているような気にもなる。
足元ぎりぎりに床から生える、無数の槍に寒気がした。
「…どうやってここに、来た」
「…ごめんなさい。陸さんにお手伝いできることはないか、って聞きたくて探してるうちに迷って…それで」
頭上から響く小さな溜息に委縮する。
「ここは危ない。無闇にうろつかないで…怪我じゃ済まない仕掛けが、いくつもある」
怪我じゃ済まない仕掛け─よりも、どうしてそんな仕掛けが家の中にあるんだろう。そっちの方が不気味で血の気が引いた。
─ここは、何だ?
…だけど意気地のない私はそんなこと訊けるわけもなく。
「ごめんなさい。ご迷惑をおかけしました」
「案内する、から…早く部屋へ戻ってください。手伝いはいい、いりません」
うっ…ですよね。今の私は疫病神でしかないだろう。