はらり、ひとひら。


「いけません。…話しすぎた」

くるっと方向転換して、陸さんはまた歩き出した。慌てて後を追うがずきりと腕が痛む。…今まで気にしてなかったけど、かなり無理のある方向へ引っ張られていたらしい。


「…痛みますか」

「い、いえ大丈─」

「駄目です。悪くしては大変」

気づかれた。大丈夫と繰り返しても陸さんはまるで聞く耳なしだ。完全に非があるのは私だけど、手当します、という陸さんの律儀な言葉に甘えることにした。


座ってと促されるまま従った。案内されたのは小ぢんまりとした和室。茶室のようだ。


ぐるりと見回す。綺麗に片づけられていて無駄なものは一つとない、静かな空間だ。お家にこんな場所があるのか…羨ましい。

さっきのからくりはさすがに驚いたけど、…踏み込んでほしくない部分もあるだろう。

気にならないのかと聞かれれば嘘になる。気になることばかりだ。でもなぜだか、それを聞いたら恐ろしいことになりそうで…聞けなかった。


「…さっきは怒って、すみません」

「え。いえ、そんな! 謝らないでください、悪いのは私です」

もう片方の手をぶんぶん振ると動くなというように抑えられた。…すいません。


「月子とは…仲良くしていますか。…千鶴は?」

「へ? あぁ、とってもいい子ですよ、月子ちゃん! すっかり打ち解けました。自分と似たような職に縁のある友達が欲しいって。それだったら是非ーって。千鶴さんもいいお兄さんですよね。いつも海斗が面倒みて貰ってるみたいで」


無理にでも笑わないと心が割れそうだったのだ。
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