はらり、ひとひら。
へへへっと笑うとわずかにだけど、陸さんが口元だけ笑った…気がした。見えない表情が少しだけ垣間見えたような─
「…千鶴も月子も…いい奴、だから。仲良くしてあげて、下さい」
もそもそと恥ずかしそうに呟く声に心が温まる。
「こちらこそ。陸さんも、よろしくお願いします」
湿布を貼る手を止めて、彼は驚いたようにおずおずと頷いた。
陸さん。千鶴さんの双子の弟で、月子ちゃんのお兄さん。重めの前髪で両目が見えないし、表情がわかりづらくて影のある雰囲気を纏っている人だけど─兄妹思い、他人思いのいいお兄さんだ。
「湿布、ありがとうございました。もうこれで大丈夫ですね」
もう日も落ちて来たし、長居しては迷惑だろう。夕飯の支度とかもあるだろうし、と腰をあげようとすると、少しだけ明るい色を含んだ声が伸びた。
「お茶、飲んでいきますか」
断る道理はない。
「頂きますっ」
・ ・ ・
〔神崎side〕
久々に足を踏み入れた倉庫は薄暗く、照らすものがなければ足元さえ見えない闇に閉ざされていた。
「コケるなよ。あんま整頓されてねえから」
「千鶴兄さんが管理してるだけあるね」
「んだとどういう意味だコラ」
「そのままの意味…あ」
こつんと足に当たる何か。壺だ。拾い上げて見ると良くできたものだったが、素焼きじゃない。置いて再び奥へと向かう。埃っぽくて空気が淀んでる。
よくこんな場所、妖に襲われないな…と感心してしまう。
「一度陸兄さんと協力して片づけてみたら?」
「あー? 無駄だよこんな場所。片づけたってきりがねぇ。あっちこっちから押し付けられるんだよこういう道具」
「まあ道具は消耗品だからあっても困らないよ。…困るのは置き場所だけってね」