はらり、ひとひら。


へへへっと笑うとわずかにだけど、陸さんが口元だけ笑った…気がした。見えない表情が少しだけ垣間見えたような─


「…千鶴も月子も…いい奴、だから。仲良くしてあげて、下さい」

もそもそと恥ずかしそうに呟く声に心が温まる。

「こちらこそ。陸さんも、よろしくお願いします」


湿布を貼る手を止めて、彼は驚いたようにおずおずと頷いた。

陸さん。千鶴さんの双子の弟で、月子ちゃんのお兄さん。重めの前髪で両目が見えないし、表情がわかりづらくて影のある雰囲気を纏っている人だけど─兄妹思い、他人思いのいいお兄さんだ。


「湿布、ありがとうございました。もうこれで大丈夫ですね」

もう日も落ちて来たし、長居しては迷惑だろう。夕飯の支度とかもあるだろうし、と腰をあげようとすると、少しだけ明るい色を含んだ声が伸びた。


「お茶、飲んでいきますか」

断る道理はない。

「頂きますっ」


・ ・ ・

〔神崎side〕


久々に足を踏み入れた倉庫は薄暗く、照らすものがなければ足元さえ見えない闇に閉ざされていた。


「コケるなよ。あんま整頓されてねえから」

「千鶴兄さんが管理してるだけあるね」

「んだとどういう意味だコラ」

「そのままの意味…あ」


こつんと足に当たる何か。壺だ。拾い上げて見ると良くできたものだったが、素焼きじゃない。置いて再び奥へと向かう。埃っぽくて空気が淀んでる。

よくこんな場所、妖に襲われないな…と感心してしまう。


「一度陸兄さんと協力して片づけてみたら?」

「あー? 無駄だよこんな場所。片づけたってきりがねぇ。あっちこっちから押し付けられるんだよこういう道具」

「まあ道具は消耗品だからあっても困らないよ。…困るのは置き場所だけってね」



< 786 / 1,020 >

この作品をシェア

pagetop