はらり、ひとひら。
千鶴兄さんの変顔に吹き出しそうになっていると、背後から通る涼やかな声が聞こえた。
「腕、どうしたの?」
「え。あぁ、ちょっと筋肉痛!」
「…俺のせい」
巻かれた湿布が痛々しい。訊ねれば陸兄さんが静かに手を挙げた。椎名さんは打ち合わせと違う! と言わんばかりの顔つきで弁解した。
「違います! 陸さんのせいじゃないです、私が急に腕立て伏せしたくなって」
「ぶはっ」
「…ふっ、腕立て伏せ? いきなり?」
面白すぎる。なんだその理由。隣の千鶴兄さんと一緒に吹き出すと、椎名さんはほっと笑顔になった。
「何その意味わかんない理由…姉ちゃんほんっと馬鹿だよね」
「いーの! 健康的でしょ」
「ばーか」
「ばっ、あんたねえ…!」
青筋を浮かべる椎名さんを制したのは月子。つーんとそっぽを向く海斗を陸兄さんが撫でて宥める。千鶴兄さんは手を叩いて場を仕切り直す。
「姉弟仲良く! 喧嘩は家帰ってやれっての。ほれほれ帰った帰った」
「あはは、それもそうですね。帰ろうか」
「ん」
「お姉さん、海斗くん、真澄くん、バイバイ」
「……気を付けて」
「じゃあね月子。兄さんたちも。椎名さん、送るよ」
手を振る三兄妹に手を振りかえした。まったく個性が強い三人だ。
「はー疲れた」
「勉強、進んだ?」
「まあまあ。…って姉ちゃん何暗い顔してんの」
はっとする。隣を見ればびくりと椎名さんが大げさなくらい反応した。
「いやあなんか、久しぶりに外出したから疲れたみたいで…」
「おばさんじゃん…」
割れそうな笑顔をした彼女。ただならぬ何かを感じ取ってしまう自分が情けなくて無性に泣きたくなった。