はらり、ひとひら。
信じられない、と大げさに驚く秀くんほどじゃないけど、私も驚きだ。なんていうかこう、神崎くんって物凄く親思いなイメージがあったから。私の勝手なイメージだけど。
「それ以前に俺の場合、あんまり母親と会わないし」
「え。マジか」
「うん」
秀くんはふーんと返事をしたきり、それ以上は追及しなかった。神崎くんはさほど気にしていない様子でお茶を飲んだ。
別居中…?
なんにせよ家庭の事情に首を突っ込むほど私は無神経になれなかったので、黙った。
・ ・ ・
〔side 神崎〕
─静かだ、と思う。
この家はいつでも静まり返っている。
だだっ広い、コの字を倒したような形の家。歴史の教科書に記載されている屋敷みたい─と言えば聞こえはいいけど現実はちがう。
この家には不要なものばかりだ。
目を閉じればかすかにだけれど、庭の池で鯉が跳ねる音が聞こえる。
誰か餌でも撒いているのか。
まさか梢恵(こずえ)伯母さまではないだろう。あの人がそんなことをするわけがない。だとすると使用人のうちの誰かか。
「…プレゼントか」
昼間の言葉を思い出す。母の日に贈るプレゼント。
普段の感謝の気持ちを込めてささやかな気持ちを送る親孝行のできるイベント。そういう日があることは知っていたが、自分が贈るだなんて考えたこともなかった。