はらり、ひとひら。
まあ考えるだけ無駄と言うものだ。同じ家にいるくせにろくに話もしなければ母の好みもわからない。そんなもの贈ったところで喜んではくれない。
幼少期ですら、母と気安く戯れた記憶がない。それは家柄のせいだけじゃない。
俺の実母神崎真弓は、身体が弱く歩くことすら体に毒なのだ。
けれど具合のいい日は布団から起き上がって話すことが出来る。そういう時は使用人が俺を呼んでくれるのだ。…最後に母と会ったのはいつだったか。数週間…いや、数か月前か。
ご飯は部屋で一人摂る。従者は俺と必要以上に口を利いてはいけないと言う鉄の掟。俺も不用意に話しかけてはいけない。家にいるときは部屋から出歩かない。必要なものがあれば従者に伝えて持ってきてもらう。
「…馬鹿馬鹿しい」
何時代だ、とひとりごちる。
そんな"異常"な生活を続けて嫌にならないはずがないのだ。
「なーに物思いに耽ってんだい」