はらり、ひとひら。
「…!」
ざわりざわりと、生傷を抉るような痛みが胸を埋めた。息が苦しい。
ここにいては─いけない。
そう思った刹那、ぶわりと視界を白い光が埋めた。眩い光に網膜が焼かれ、目を開けられない。
今度は何か、と胸を押さえ立ち上がると目に入ったのは見慣れたカーブミラーと十字路。どうやら、見慣れた通学路のようだ。
「…神崎くん? ど、どうしたの。顔、真っ青だよ」
「え? な、ん」
なんでここに、と訊けば混乱したように「一緒に帰ってるから…?」と椎名さんが半疑問形で答えた。
これも、夢?
わからない、どこからどこまでが夢だ?
いよいよ混乱し始めた俺を見て自分より混乱する椎名さんに、情けなくも冷静さを取り戻す。
「きっとお疲れなんだね神崎くん。早く帰って、寝た方がいいよ」
「…うん。ありがとう、そうするよ」
「あ、実はよく眠れる杏子特製ホットミルクがあってねー」
「え。本当に効くの?」
「失敬な! 効果てきめんだよ」
力説する彼女がおかしくて、ほんの少しだけ力が抜ける。ふと自分の右手を見ると愛刀はしっかり握られていた。
「でさ、秀くんが飛鳥のクッキー床に全部ばら撒いちゃって、飛鳥はカンカン、秀くん走って新しいの買に行こうとして」
「ふは、簡単に想像つくなあ」
「本当、平和だよね。こういう毎日って」
「…うん」
そんなこともあっただろうか。いや、初めて聞いたかもしれない。いつの話だろう。
「大切、なんだよね。何気ない日常も、穏やかな時間も」
「…」