はらり、ひとひら。


「だからさ私、毎日大切に生きようって思えるんだ。いつ死んでも後悔しないように」

「何それ、椎名さんまるで死ぬみたいな言い方─」


笑って隣を見ると彼女はいなかった。


「椎名さん…?」


どこ、と呟いた声は反響して自分に返るだけ。


「神崎くん。ごめんね、私もう行かなくちゃ」


「! 待って!」


隣を歩いていたはずの彼女は気が付けばずっと先をいっていて。振り返り、何も恐れない笑顔を浮かべて夕焼けに向かって歩き出した。

どこにいくというのだ。

冷や汗がぶわりと流れ出た。


慌てて追いかけるが、到底追いつかない。埋まらない距離。それどころか広まる一方だ。

いつから、こんなに二人の歩幅がずれただろう。


歯がゆくて手を伸ばす。けれど彼女の手には届かない。


…嫌だ。やめてくれ。


「─いかないで!!!」



強い力に瞼を引かれ、泥のように眠った。また、世界が暗闇に引きずり戻された。


「う…」


瞼を開ける。今度こそ現実なのか、と錯覚しそうになる。次の舞台は─


「…家」


自分の家だった。

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