はらり、ひとひら。
そっと手を伸ばすまやかしの母の手。俺はそれを払いのけ、歩みを進めた。
視界は変わらず暗かったが、ぽつりぽつりと浮かぶ明かりのようなものが俺をどこかへ導いているようだった。
この世界の終着点はどこなのか。
どこからどこまで、夢なのか。
…わからない。だけど進まなければ帰り道は開かない。そう信じて足だけに意識を集中させた。
・ ・ ・
side-月子
「婆さまっ、真澄義兄(にい)さんの容体は?」
「月子、大きい声を出してはいけませんよ。…未だ意識が戻らぬままです」
神崎家から電話が来たのは夕飯前のことだった。突然の不運。忙しい兄二人に代わりお見舞いに伺い、婆様は厳しい顔で私を見た。
「いきなり倒れたなんて…」
「他の家には連絡を回していません。迂闊に話せば更に混乱は広がり騒ぎとなる、この意味がわかりますね?」
「はい…」
絶対に口外するなということだろう。勿論そんな非道な真似はしない。
「原因がわかりません。恐らく妖に障られたか…式神がついていたはずですが」
「式神はどこへ?」
「側近の鴉は探しにいくと家を出ました」