はらり、ひとひら。


「お父さんね、優しかったよすごく。…いつも笑ってたし、怒られた記憶ない」

「え? 姉ちゃん、すごいお転婆なんじゃなかったの?」

「あー、お母さんにはよく叱られたけど」

あははと笑って記憶を探る。

小さい頃って好奇心と行動力有り余ってるからね…


「そんな怒られるまで何してたの?」

頭を捻る。これといって野蛮なことはしてないはずだ。


「虫採ったり池に落ちたり野良犬と戦ったり…?」

「…性別間違えたんじゃない」


憐れむように海斗はぽんと私の肩に手を置いた。ちょっとまってそれどういう意味。


「事実と感想。ちょっとしおらしい方がいいんじゃない」

「なによー!」

「だから、見た目はまあギリギリブスじゃないし、もっと内面磨きなって」

「誰がブスだって!?」

「はあ!? ブスじゃないって言っただろ! 当たんな! やっぱりブス!」


こんのくっそ生意気な弟め! すまきにしてやる、と首根っこを掴むと「やめなよ」と笑い交じりの柔らかい声が聞こえた。


驚いて声の聞こえた方を見るが、もちろん誰もいるはずなく。


「…姉ちゃん?」

「……今、」


不思議そうに私を見る海斗に「お父さんの声が、」と言いかけて「なんでもない」と続けた。

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