はらり、ひとひら。
そうだ。お父さんはもういないんだ。海斗が生まれて数か月後に亡くなった。
仏間にも遺影があるじゃないか。
だけど私は…寂しくないよ。お母さんと海斗がいて、友達もいて、師匠もいる。
お父さんもきっと天国でおじいちゃんやおばあちゃんと、ご先祖様に囲まれて楽しく生活してるんじゃないだろうか。
この年になっても私は天国を信じている。あまり言うと馬鹿にされそうだから、周りには言わないけれど。
だから私はちっとも─さみしくなんて。
『ウそつき。お前ハ、さみシい子、可哀相ナ子。』
─顔を上げた時にはもう、全てが遅かったような気がする。
迫る黒い大きな口。すべてが飲み込まれて体の力が根こそぎ持って行かれた感覚。
覚えているのは身体が畳に叩き付けられた痛みと、海斗の姉ちゃん、という叫びだけ。
意識は途切れた。
・ ・ ・
重すぎる瞼を開けると光に目を焼かれた。
「まぶしっ…なに? どこ…」
光の正体は照りつける太陽。うわ、いかん。網膜が焼かれてしまう。
太陽に長らく焼けたアスファルトは熱を持ってじわりと私の四肢を熱する。熱い。飛び上がるように立つと自分がどこにいるのかようやく理解した。
「遊園地…」
ごおお、とアトラクションが風を切る音。楽しげな悲鳴があちこちで聞こえる。
私がもともと住んでいた市の、端の方にある小ぢんまりとした遊園地は、親子連れとカップルでにぎわっていた。
「なんでここにいるんだろう…」
何一つわからなかったが、昔大好きだった着ぐるみのキャラクターやよく乗ったジェットコースターを見ると、途端になつかしさが胸を占め視界が曇った。